東京高等裁判所 昭和29年(う)2529号 判決
被告人 白川富麿
〔抄 録〕
控訴趣意第四点について。
按ずるに、本件起訴状が公訴事実第一において、本件業務上横領の事実を記載するに当り、所論指摘のごとき記述方法によつていることはまさに所論のとおりである。しかし起訴状は、被告人は(中略)同年八月下旬松本市本町一丁目一五三番地大久保静一に対し右預金中金八万五千円を擅に貸付け、次で同年九月初旬より同年十一月下旬迄の間に右預金の内約二万円を擅に着服横領し、と記述し、金八万五千円の横領と、約二万円のそれとを、行為の時期、態様、横領金額をそれぞれ区別特定して明示し、これらが単一若しくは継続した意思の発動に基いて敢行されたことを示すべき文言を使用してはいないのであるから、たとえ所論のようにこれを第一、第二と項目を分けず棒書にしているからといつて、それだけの理由で直ちに本件業務上横領の各所為が包括一罪として起訴されたとみるのは相当でないのみならず、右のような公訴事実の記載によれば本件各所為はむしろ普通の併合罪として起訴されたとみるのが自然であり起訴状記載の公訴事実について、それが包括一罪を構成するか又は併合罪を構成するかの点に関し検察官の釈明を俟たなければならないような不明確なものがあるとは到底認められない。さすれば原審が右の点について検察官に釈明を求めないで審判を進めたのは相当であり、原審の措置には所論のごとき審理不尽の違法はないわけである。
しこうして原審が、被告人は業務上原判示小切手を保管中これを現金に換えた上昭和二十六年八月下旬頃原判示大久保静一に対し内金八万五千円を擅に貸し付け、更に同年九月初旬より同年十一月頃までの間に内金二万円を擅に自己に領得の意思をもつて着服し、もつていずれも横領した旨の事実を認定し、被告人の右業務上横領の各所為を刑法第四十五条前段の併合罪として処断したことは、原判文の示すとおりである。そこで原審認定の犯罪事実を同挙示の証拠と対照して検討してみると、本件業務上横領の各所為が、その被害法益を単一にし、比較的短期間内に近接して行われていることは否定し得ないが、行為の一部は八月下旬頃の他人に対する貸付横領、その他は九月初旬頃から十一月頃までの間における着服横領であつて、横領行為の態様を異にし、時期的にみても両者は一応截然と区別され、各横領行為の全部は必ずしも単一若しくは継続した意思の発動に基いて敢行されたものとは認め難いのであるから、原審が被告人の各所為を包括一罪とみないで刑法第四十五条前段の併合罪として処断したのはまことに相当であるというべく、原判決には、所論のごとき法令の適用の誤は存しない。